ルガリアのボーリアさん(女性)とは、ルーマニアのブカレストからブルガリアのペリユ-タルノボへの途中、国際列車の中で知り合いました。座席番号が彼女のすぐ前で、列車の遅れも手伝って長い車中も短く思うほど話が弾みました。あまりにも彼女が日本のことに興味をもち話が合うので、途中下車を止めて首都のソフィアまで一緒に行きました。下車の際、自宅に泊まるよう誘われましたが、その頃は入国と同時に四角の線を引いた紙に、「自分の泊まったホテルのスタンプを押すべし」という外国人に対する規則がありました。私には、その法を犯してまでの勇気がありませんでした。彼女の自宅近くの宿からブルガリアの田舎巡りをしたり、母親に招かれたり彼女の友人との出会いは、実に心よいものでした。
彼女はロシア語と英語の通訳をしながら、ソフィア大学の図書館に勤務し、学生時代の結婚で息子一人がいますが、すぐに離婚して一人で育て上げたようです。今のご主人は父親のような存在の方で、建築の技術者らしく中欧の国々のビルの建設に渡り歩いており、彼女は通い妻であることを自称していました。ブルガリアには馴染みがなかったのに、彼女への会いたさを理由に何度も足を運びました。
そして、東欧・中欧の国々を巡りました。それぞれの国は、少し近代化には遅れていますが、昔ながらの伝統を重んじて民族を誇りに思っています。生活は実に質素で素朴、いまだに国境を接するが故に戦の傷跡も引きずっています。いつものんびりとした旅を心ゆくまで味わうことができ、想い出す度に懐かしさが込み上げてきます。
現在、彼女は勤務のかたわら、ヨーロッパ各地からはみ出て放浪の旅を続けるロマ人の子供たちに、教育を与える小さな教室を開いています。そのボランティアの仲間で大阪在住の匿名の方が、資金を出しているとか。彼女の日本人に対する絶大なる信頼度は、ここから発せられたと理解しました。
彼女との交際は10年近くになりますが、以前一緒にお世話になった方とともに航空券をプレゼントして、日本の春を楽しんでもらったことがあります。吉野の満開の桜のなかに佇む彼女は、「これは夢の中だ」と思わず叫んでいました。その姿を想い出し、来年のサクランボの季節には会いに行きたいなと望んでいます。
これからも、旧友を訪ねたり山岳地と歴史を巡る旅を続けられよう願っています。